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建設業マッチングプラットフォーム「ツクリンク」、AIレコメンド機能でマッチング率を向上
~検索依存から脱却し、全体マッチング数の3%を創出~

会社名
ツクリンク株式会社
業種
建設事業者向け受発注マッチングプラットフォーム運営
事業内容
全国11万社超の建設関連企業をつなぐ受発注マッチングサービス「ツクリンク」の開発・運営 
従業員数
102名 ※2025年9月時点

概要

ツクリンク株式会社は「産業構造を変え、豊かな未来をつくる」を掲げ、全国11万社超の施工会社・職人と元請企業をつなぐ受発注マッチングプラットフォーム「ツクリンク」を展開しています。オンライン上のマッチングサイトに加え、東京・大阪・福岡などで開催する対面交流会を組み合わせ、業界特有の課題解消を支援してきました。
会員数は急拡大する一方、従来の「検索」機能のみに依存したマッチング手法では限界が見えており、AIを活用したレコメンド機能の導入に取り組みました。
「検索機能に依存せずにユーザーにとって関連性の高い案件を見つけられる状態にできれば、マッチング機会を増幅させ、顧客体験を最大化できるはず」——こうした想いから、ツクリンクはMiDATAと協働し、AIを活用したレコメンド機能の開発プロジェクトに着手しました。

背景と課題

ツクリンクでは長らく「検索」機能がユーザーによる案件探しの主流でしたが、次のような課題が顕在化していました。

  1. マッチング機会の損失
    検索機能を中心としたマッチングでは、ユーザーが見つけた案件が既に募集を締め切っていたり、職種や工期などの条件が自身の希望と合わない、といった課題がありました。その背景には、検索キーワードがわずかに違うだけで有望な案件を逃してしまうという検索の限界がありました。加えて、建設業特有の「職種・工種・現場地域や規模・期間」といった多岐にわたる条件が完全に合致しなければ、ユーザーにとって「希望に合わない」と判断されてしまい、本質的なマッチングを難しくしていました。
  1. 直接サポートが行き届かない
    一部の有料プランのユーザーにはカスタマーサクセス担当がつき個別のサポートによってマッチングを提案できる一方、カスタマーサクセス担当がつかないユーザーは自走型でマッチングしてもらう必要がありました。ユーザー自身の操作で最適な案件に出会える仕組みがなければ、潜在的なマッチングは埋もれたままになってしまいます。

これらの要素が重なり合い、マッチング率と利用体験の改善における課題になっており、ツクリンクは「検索に依存せず、ユーザーにマッチした案件を届けるAIレコメンド機能」の提供が急務であると位置付けました。

プロジェクトの推進とテクノロジー活用

この構造的課題を打破するため、ツクリンク社はAIを活用したレコメンドエンジンの導入に乗り出しました。ツクリンク社は建設業界の業務ノウハウや案件募集・マッチング成約などのデータを豊富に保有していましたが、「どの情報をどう機械学習モデルへ落とし込み、ユーザーにも納得感のあるレコメンドを実現するか」といった技術的課題を抱えており、外部パートナーにその知見を求めました。そこでパートナーとして選んだのが、AIによるレコメンドに関して豊富な実績を持つMiDATAでした。
本プロジェクトは2023年に始動。ツクリンクとMiDATAは協働体制を構築し、開発を進めました。
はじめに、「データ基盤を整備し、その上で機械学習を活用する」方針のもと、募集投稿・応募・閲覧ログなど既存データを整理・統合することで、あらゆるデータの可視化と、AIが学習できる土壌を先に整えました。

有田浩平氏(ツクリンク)は次のように語ります。
「募集テキストの”建設特有の専門用語”をモデルが正しく理解する必要がありました。MiDATAさんとはキーワード抽出や業種ラベルの付与方針を何度も擦り合わせ、ユーザーに本当に貢献するレコメンドを目指しました」

データ基盤の整備と並行して、AIレコメンド機能の導入プロジェクトを進行しました。

技術選定:流行のLLMではなくLDAを採用

ツクリンクが最初に求めたのは、ブラックボックス化せずに短いサイクルで仮説検証を回せることでした。そこで流行のLLMではなくLDA(Latent Dirichlet Allocation)を採用。LDAであれば解釈性が高いため、出力の根拠も可視化しやすく「なぜその案件が表示されたのか」を確認して改善するといった、PDCAを高速に回すことができるというメリットがありました。さらに推論計算量が小さく、クラウドコストや計算時間を抑えられることも採用理由でした。一般にレコメンデーションは膨大な量のユーザーとアイテムの組み合わせから価値のあるペアを探索する必要があり、計算リソースの確保は実務接続まで見据えると本質的な問題と言えます。
もう一つの決め手は建設業界の専門要件への柔軟な対応です。工種や元請/協力業者といったラベルを細かく考慮できるため、LLMに全文を投入した際に起こりがちな”表層的な類似”を避けることができます。

モデル設計の奥深さ

開発初期、プロジェクトチームは実際に使われているキーワードを徹底的に調査することから着手しました。解釈性の高いトピックの括り出しと精度の両立に拘り、MiDATAメンバーが何十個もモデルを作成して検証。定量指標でベンチマークを上回る精度を実現しました。定性評価は現場を熟知するカスタマーサクセスチームにヒアリングするなど、部門横断ですすめました。これまでカスタマーサクセスが蓄積してきたノウハウをレコメンド結果に反映することで、より納得感のあるレコメンドになるような設計を目指しました。

 こうした取り組みによって高度なデータ分析と現場のノウハウが融合し、検索機能に依存していた従来のUXを補完する仕組みが完成しました。 

導入効果:"3%"のインパクト

レコメンド機能をリリースしてから半年足らずで、協力業者募集ページの閲覧数とマッチング数の双方が、レコメンド経由だけでプラットフォーム全体の3%に達しました。検索機能だけではヒットしなかった案件が可視化され、ユーザーには「思わぬ良案件が届く」体験を、ツクリンクには”自動で伸びるマッチング”という新たな成長ドライバーをもたらしています。
なお今回採用したAIによるレコメンド機能は、従来のタグベース+ランダム表示方式との比較においても、閲覧数などのスコアは大きく上回る結果となりました。数字で効果を検証しながらモデル改良を重ねられる体制が整ったことで、今後はパーソナライズ強化や新サービス連携など、さらなる拡張にも手応えを感じています。

有田浩平氏(ツクリンク)は次のように語ります。

「3%は小さく見えるかもしれませんが、従来存在していなかった可能性のある3%のマッチングが新規創出できていると考えると重要な成果です。そして、なによりも大きな成果が”現場が納得して満足してもらえるレコメンド”を実現できたことです。」

本プロジェクトは、単なるAI技術の導入にとどまらずユーザー体験・事業KPIの双方を改善した成功事例となりました。検索依存から脱却したことでマッチング効率が向上し、プラットフォーム全体の価値向上と差別化に寄与しています。

成功の要因

ツクリンクとMiDATAは週次で進捗と課題を共有し、スピーディにモデルに反映するサイクルでプロジェクトを推進しました。この”高速PDCA”が、わずか3ヶ月でのレコメンド精度向上を可能にしました。

有田浩平氏(ツクリンク)は次のように振り返ります。
「スピーディな意思決定と実行ができたことが鍵でした。MiDATAさんは毎週の定例で、良かった点・課題感、次に取りうる選択肢、すべてを適切にテーブルに並べてくれます。メリットとリスクをセットで示してくれるので意思決定もスピーディに行うことができています。MiDATAさんの伴走があったからこそ、たった3ヶ月でリリースまでたどり着けました」

大川氏(MiDATA)も次のように語ります。
「私たちは元々事業会社でプロダクトを育ててきた経験があるので、事業会社が求めるスピード感に応えられるように意識しています」

今後の展望

ツクリンクが次に掲げるテーマは、「一人ひとりに最適化された体験」の実現です。現在開発中のAIレコメンド機能のバージョン2では、各ユーザーの行動履歴を学習して案件を出し分けるパーソナライズ型レコメンドを導入し、これまで以上にマッチング体験を向上させていきます。同時に、ユーザーごとに利用できる「マイページ」についてもさらに使いやすいUXを提供することでカスタマーサクセスのサポートに依存せずに直感的にマッチングできる体験を提供していきます。

「建設業界をもっと元気にしたい ——それが私たちの原動力です。現場発のサービスにAIを掛け合わせ、生産性向上や人手不足の解消に貢献したい。今後は交流会や建設業界に特化したM&A・人材紹介など周辺領域まで視野を広げ、業界全体を底上げできる仕組みを育てていきます」
——有田浩平氏(ツクリンク)

まとめ

ツクリンク株式会社のAIレコメンド機能導入プロジェクトは、解釈性を重視したLDAアプローチと現場知見の融合により、プラットフォーム全体の3%という新たな価値創出を実現しました。
検索依存からの脱却と機会損失の削減という課題に対し、高速PDCAと週次フィードバックを重視した開発体制が成功の鍵となりました。また、最新技術であるLLMではなく、解釈性とコスト面を考慮してLDAを選択したことで、現場が納得できるレコメンドシステムを構築できた点も特筆すべき成果です。
このプロジェクトは、AI導入において技術選択の妥当性、現場知見の活用、継続的な改善サイクルの重要性を示す優れた事例として、他業界のマッチングプラットフォームにも多くの示唆を与えています。 

MiDATAはこれからもクライアントの成果にコミットするAIプロジェクトを推進してまいります。