
マッチングアプリ「CoupLink」
AI活用で一人当たりのマッチング数 380%を達成
〜機械学習と数理最適化による革新的アプローチ〜
基本企業情報
- 会社名:株式会社リンクバル
- 業種: 婚活・恋活マッチングアプリ運営
- 事業内容: リアルイベント×オンラインで真剣な出会いを提供する「CoupLink(カップリンク)」をはじめ、幅広い出会い関連サービスを展開
- 従業員数: リンクバルグループ全体で約56名
取材対象
- 株式会社リンクバル 取締役 髙橋さん
- 株式会社MiDATA 執行役員CTO 大川さん
概要

株式会社リンクバルは、設立以来「人と人」との出会いを軸にさまざまな事業を多角的に展開しています。リアルとオンラインの融合を進めながら、出会い・交流の新たな価値を創造し続けています。リンクバルが展開するCoupLinkは、オンラインとリアルイベントを融合し、真剣な婚活・恋活を支援するサービスとして多くのユーザーに支持されています。
CoupLinkでは、ユーザーの幸せな出会いを提供するために「マッチング率の向上」が重要指標の1つです。しかし、従来の検索・ルールベース方式では、特定の人気ユーザーに「いいね」が集中する“総取り問題”が顕在化。一人ひとりのユーザーの細やかな嗜好を十分に反映できず、理想の相手とのマッチングが阻まれていました。
「年齢や地域といった単純条件だけでなく、ユーザー同士が“お互いにいいな”と思う確率を最大化する必要がある」 ――こうした想いをもとに、リンクバル社はMiDATA社とタッグを組み、双方向の好意を捉えるAI開発のプロジェクトに着手しました。
背景と課題
CoupLinkのようなマッチングアプリでは、長年にわたり片方の希望条件のみを扱うルールベースのレコメンド方式が多く採用されており、次のような課題が発生していました。
- 人気ユーザー総取り問題
人気会員に「いいね」が集中しすぎる人気の偏りが発生し、一部のユーザーにはアプローチが殺到する一方で多くのユーザーは埋もれてしまい、出会いの機会損失が生じていました。 - マッチング率の低さ
例えば、自動レコメンドがユーザーの好みだけを考慮して人気異性を表示しても、その異性側からの好みや条件が合わなければマッチングされません。結果として、マッチング率の低さにつながってしまいます。
このように、マッチング率を向上させるには双方のユーザーの好みや条件を考慮する必要があります。男性と女性、双方の「どの相手とマッチしたいか」という選好を考慮しなければ、有効なマッチングは実現しません。またその際、単純なルールベースではなく、マッチング率の高い組み合わせでレコメンドする必要があります。
この課題を解決するためにリンクバル社は、AIを活用した新たなアプローチの模索を始めました。
プロジェクトの推進とテクノロジー活用

本プロジェクトは2020年から始動しました。リンクバル社の社内メンバーはマッチング率の向上に必要と思われる知見を有していましたが、どの要素をどのようにAIに組み込み実装するかという具体的な技術的知見が不足していました。
MiDATA執行役員・大川氏は次のように語ります。「リンクバル社の担当者からマッチングアプリに関する深い業務知見を綿密にヒアリングし、得られた情報を体系的に整理しました。その上で、機械学習と数理最適化を組み合わせた複合的なアプローチを検証しながら具体的な双方向レコメンドの実装へと落とし込んでいきました」
このプロジェクトでは、次のような先進テクノロジーを中心に活用しています。
- 双方向レコメンド
- 従来の一方向的な条件一致に留まらず、双方が「いいな」と感じる本質的な組み合わせを抽出
- 機械学習により、ユーザー双方の「好み」をそれぞれ予測
- 数理最適化
- 居住エリアなどのプロフィール情報を活用した一次フィルタリングしたうえで機械学習の予測結果に数理最適化を適用し、全体のマッチング数を最大化
- 人気会員に「いいね」が偏らないよう、マッチング候補を最適に分散

マッチング最適化の検証は、ユーザー行動がどのようにマッチングの生成に影響を与えるか?を細かく分析しながら進めました。例えば現場ヒアリングやデータ分析の結果、「ユーザーのログイン頻度」がマッチング率への影響要因として浮かび上がりました。いくら相性が良くても、ログインしていないユーザーとのマッチングは成立しません。そこでレコメンド候補となるユーザーのログイン状況も機械学習で予測し、それを数理最適化に組みこむことで、マッチング率を飛躍的に向上させることができました。現場の知見と先進技術が見事に融合し、プロジェクト全体の成功に大きく寄与しました。
導入効果・成果
本プロジェクトを通して、CoupLinkでは次のような成果を創出することができました。
1. マッチング数が380%に
- レコメンドの質向上により“人気ユーザー総取り”の状態を緩和。マッチングしやすい対象がレコメンドされるように。
- 一人当たりのマッチング数は2020年10月からの比較で2022年4月時点で最大180%に、そこからさらに改善し、現在は最大約380%にも達しています
2. ユーザーからの良好なフィードバック
- ユーザーヒアリングにおいて「自分好みの相手が的確に紹介される」「新たな出会いが増えた」といったコメントもあり、ユーザーの満足度が大幅アップしました
事業成果の面でも本プロジェクトの成果は顕著でした。特にマッチングが成立しやすくなったことで有料会員への転換にも貢献。「ユーザーの出会いを創出する」というサービス価値が強化されたことでCoupLinkに対するユーザー評価も高まり、他サービスとの差別化の要因にもなっています。

リンクバルの髙橋様は本プロジェクト成功を通じて学んだ、AIプロジェクトを成功するためのポイントを次のように話します。
「私たちのプロジェクト成功の鍵は、まずは自社の課題設定や業務理解や深い知見を適切に協力先のパートナーに伝えることです。ここを丸投げしては成果は得られません。そして、繰り返しの仮説検証が重要になります。AI開発に必要な“探索段階型の開発”において筋のよい仮説設定ができ、粘り強く事業成果に向けて伴奏してくれる実績や知見のあるパートナーを選ぶことが重要だと考えます。その点でMiDATA社は最適なパートナーでした」
本プロジェクトは単なるAIなどの先端テクノロジーの導入に留まらず、ユーザー満足度と事業KPIの双方を劇的に改善する大きな成功事例となりました。
今後の展望
日本が直面する少子化の原因の一つとして、経済的・社会的要因に加え未婚者の「出会い機会の減少」が指摘されています。こうした背景の中、CoupLinkが進めるAIによるマッチング最適化は、理想のパートナーと巡り会う可能性を高める有力な手段になります。リンクバル社は、本プロジェクトを通じて少子化問題という重要な社会課題の解決に寄与するため、マッチング技術をさらに高度化していく方針を掲げています。MiDATAは2024年7月に、東京大学大学院経済学研究科附属のマーケットデザインセンター(UTMD)との共同研究開始を発表しました。東京大学の最先端のマッチング理論を活用し、アルゴリズムの改良と新技術の検証を進めることを目的としています。
(参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000683.000004786.html )学術界の専門知識を取り入れることで、現在のAIエンジンをさらに理論的に洗練させ、リンクバル社が目指すCoupLinkのマッチング最適化に貢献していきます。
まとめ

リンクバル社のCoupLinkはMiDATAとのマッチングAIプロジェクトにおいて、双方向レコメンドと数理最適化を組み合わせることで、一人当たりのマッチング数を最大で380%に向上させる飛躍的な成果を達成することができました。
人気ユーザーへのマッチングの偏りを緩和しながら、双方が「いいね」と思える確率を最大化する新しいソリューションは、婚活・恋活にとどまらず、人材マッチングやビジネスマッチングなど広範な領域への応用が期待できます。
また、リンクバル社が強調する「事業理解の重要性」と「粘り強く成果にコミットする姿勢」は、AI導入を検討するあらゆる企業がAIプロジェクトに取り組むうえでの示唆となりました。
MiDATAはこれからもクライアントの成果にコミットするAIプロジェクトを推進してまいります。
「マッチングAI」の適用可能な領域
MiDATAでは、リンクバル社CoupLinkでのプロジェクトを通じて、機械学習と数理最適化をパッケージにした双方向マッチングのサービス「マッチングAI」を提供開始しました。「マッチングAI」は男女のマッチングのほか、次のような「双方向の意思」が重要な領域で効果は絶大です。
- 企業と求職者マッチング:看護師やフリーランスなどの求人と求職者のマッチング
- ビジネスマッチング:需要と供給が複雑に絡む領域で、双方向のニーズを考慮した最適マッチングを実現
- オンラインコミュニティや趣味嗜好型サービス:ユーザー同士の興味関心をAIが捉え、思わぬ出会いや協力関係を創出
- 社内の人材の最適配置:大規模な組織における、人事異動や人材配置、アサインメント業務での部門と人材のマッチング最適化